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飛鳥時代の仏像3:法隆寺夢殿観音



(法隆寺夢殿観音、木像、像高179.9cm)

夢殿観音の名でも知られる法隆寺夢殿の観音像は正式には救世観音という。仏像本体はクスノキの一木彫りで、高さは180センチメートルもある。顔や姿の特徴からして、飛鳥大仏や金堂釈迦三尊像と同じく北魏の仏像の影響を強く感じさせる。製作者の名は明記されていないが、前二者と同じ鞍作止利かその息のかかった人の制作になる可能性が高いと思われる。

顔が長く、鼻の形が三角形で、下の瞼が目尻のところで吊り上っているのは、金堂の釈迦本尊及び飛鳥大仏と似ている。しかしよく見て比較すると、飛鳥大仏が荒々しい男性らしさを感じさせ、釈迦仏が貴公子のような端正さを感じさせるとすれば、この観音像は女性的なやさしさを感じさせる。顔のみならず、姿勢からもそうした女性らしさが漂ってくるようだ。

法衣は長い下裳と左右にひきずるように伸びた天衣が特徴である。天衣は肘のあたりから先端にかけて五つの突起がついており、肩からはワラビ状の垂髪が伸びている。全体の印象としてほぼ完全なシンメトリーといえる。

唯一シンメトリーから外れるのは両手だ。違う角度に組み合わせた両手でマニ宝珠を持っているが、その手の様子が静的なシンメトリーではなく、動的な非対称性を感じさせるのだが、それがかえって仏像に動きの要素を付け加えているように見える。



冠と光背は銅製で、非常に精巧な模様が付されている。宝冠は円筒状で、冠帯の左右がはみ出し、中央部には三つの円座がつけられている。円座の中心にあるのは青玉である。光背には唐草文と火焔文が施されているが、その精密さは高度な技術を感じさせ、そこからも鞍作止利のような専門家の手の介在を推測させる。

観音像が乗っている複弁の蓮華座は別木で、飛鳥時代ではなく白鳳時代になって作られたとする説が強い。

なおこの像にも、作られた当初には、銅製のと同じように金箔が施されていたと考えられている。






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