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天平時代前期の仏像1:薬師寺薬師三尊像



(薬師寺薬師三尊のうち薬師如来像)

薬師寺金堂の薬師三尊像は、680(天武天皇八)年に発願されて藤原京に作られた元薬師寺の本尊として作られ、平城遷都後の寺院の移転に伴って現在の薬師寺に伝わったものと考えられている。そうだと考えれば、この仏像が初唐の様式をよく伝えていることが納得される。

初唐の様式というのは、写実主義を徹底させたもので、人体の自然の美しさを追求したところに特徴がある。その点、精神性を重んじるあまり写実にこだわらなかった北魏の様式とは著しい対照関係にある。

この薬師三尊のどの像も、人体比例は現実の人間とほぼ同じである。そしてふくよかな顔つきや身体の線が現実の人間を彷彿させる。といっても、仏が人間の姿を取ったというような感じはさせない、むしろ仏の姿を借りて人体の究極の美しさを表現しようとする意思を感じさせる。

中央の薬師如来は、円満で具足した表情をしている。巨大な台座の上に結跏趺坐し、上半身は裸体で左肩から衣を垂らし、上品下生の印を結んでいる。薬師如来といえば左手で薬壺を持つ姿が連想されるが、このように阿弥陀仏と共通の印相や釈迦と同じ印相を結ぶものもあるわけである。それだけだと、薬師仏としての特徴が曖昧になるが、この仏の場合には脇侍として日光・月光両菩薩を従えていることから、薬師如来であることが明らかである。


(薬師寺薬師三尊のうち日光菩薩)

両脇侍は、腰のひねり方や手の位置などがほぼ左右対称になっている。像高は日光菩薩のほうが2センチばかり高い(日光317.3cm、月光315.3cm)。どちらもややうつむき加減で、おだやかな表情をしている。上半身は裸体で、胸には瓔珞をつけ、両肩から衣を垂れている。

これらの仏像は前後左右いずれの方向からも見ることが出来る。むしろそうした視線を前提にして作られているといってもよい。その点も、もっぱら前から見られることを前提にしている前時代の仏像と異なる。


(薬師寺薬師三尊のうち月光菩薩)






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