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信貴山縁起絵巻1:山崎長者の巻



(信貴山縁起絵巻:山崎長者の巻1、31.7×879.9cm、奈良・朝護孫子寺)

信貴山縁起絵巻は、12世紀の半ばころに成立したわが国最古の縁起絵巻である。「山崎長者の巻」、「延喜加持の巻」、「尼公の巻」の三巻からなっており、大和と和泉の境にある信貴山朝護孫子寺にまつわる霊験譚を絵巻物にしたものである。作者は鳥羽僧正と伝えられてきたが、確証はない。ただ、信貴山の現地で描かれたのではなく、都で描かれたことが判明している。当時の宮廷絵師が描いたのだろうと推測される。

各巻に登場する命蓮という僧は、実在した人物で、寛平頃(九世紀末)に信貴山に入り、十世紀前半に活躍したことが知られている。史書には、醍醐天皇の病気を治癒する祈りに参加し、その働きを評価されて、信貴山内の自坊に朝護孫子寺の名を与えられた。

「山崎長者の巻」は「飛倉の巻」ともいう。命蓮が鉢を飛ばしてお布施を集めていたところ、山崎長者がそれを無視した。すると怒った命蓮は、鉢の霊力で倉を持ち上げ、それを信貴山まで運んでしまう。山崎長者が信貴山までいって、命蓮に許しを請うと、命蓮は倉の中の米俵を、鉢に載せて戻してやるという、ユーモラスな内容の話だ。(もっとも詞書はない)

上の絵は、鉢が霊力を発揮して倉を持ち上げようとする場面。金色の鉢が倉の下にもぐって、倉を持ち上げようとすると、倉は屋根の瓦を落としながら揺れ動く。それを見て罵り騒ぐ人々。入り口近くにいる女たちはいまにも腰を抜かしそうだし、小坊主は両足を爪先立てて何事かと驚き、その背後の坊主は口をあんぐりとあけて茫然としている。人々の表情がなんともユーモラスに描かれている。


(信貴山縁起絵巻:山崎長者の巻2)

いよいよ空中に持ち上げられた倉は、信貴山の方向に向かって飛んでいく。それを下界の人々が、驚いた表情で見上げている。







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