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駒競行幸絵巻その一(静嘉堂本):鎌倉時代の絵巻物



(駒競行幸絵巻、太皇太后の一行が高陽院に到着したところ)

駒競行幸絵巻は「栄花物語」の一節を絵巻化したものである。テーマは、藤原頼通が万寿元年(1024)の九月に、高陽院の自邸に御一条天皇と東宮、太皇太后(一条天皇中宮)の行啓を仰いで催した競馬である。頼道は、この競馬を記念してわざわざその記録を作成させたほどだったが、この絵巻は「栄花物語」によっている。

この絵巻は、13世紀末か14世紀の初め頃に成立したが、競馬の場面はじめ多くの部分が逸失して、現存するのは太皇太后の一行が高陽院に到着したところを描いたもの(静嘉堂本)と、東宮一行が高陽院に到着した時の二つの場面を描いたもの(久保惣美術館本)の二種である。

この絵巻は、車馬群衆の描写にすぐれ、また公家・殿上人の姿や有職故実の精妙な描写が、当時の風習をつぶさに知る手がかりを与えてくれる。

静嘉堂に伝わるこの絵は、「御手洗行幸」の巻とも呼ばれ、競馬に先立って太皇太后が高陽院に行幸するところを描いている。太皇太后の上東門院彰子は道長の娘であり、したがって頼道とは兄弟の間柄だったわけで、この競馬に先立つ行幸は里帰りのようなものだったわけである。

画面は、太皇太后を乗せた輦輿が、橋を渡って車寄せに近づくところを描く。「栄花物語」には、「寝殿の南の階のつまに御輿寄せて下りさせ給ぬ」とある。輦輿を取り巻く束帯姿は近衛の武官たちである。

なお静嘉堂本は火災にあったらしく、画面の端に十箇所ほど焼損の痕がある。







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