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雪舟の山水長巻(一)




今日「山水長巻」として知られる雪舟の四季山水図巻は、何点か伝わっている雪舟の山水図巻の最高傑作であるとともに、雪舟の画業の頂点をなすものだ。縦四十センチにして十六メートルにも及ぶこの長大な図巻のうちに、雪舟は己の画法の粋を注ぐとともに、絵を通じて己の人生観のようなものを表現して見せた。あらゆる意味で、雪舟の雪舟らしさが集約された作品といえる。

巻末の署名に、文明十八年、六十七歳の年の作とある。その年に、大内氏が雲谷庵の再興を助け、画房として天開図画楼が整備されたことに応え、雪舟が自分の画業の頂点として描き、大内氏に献じたとされる。大内氏の滅亡後、この図巻は毛利氏の手に移り、家宝として伝えられてきた。現在は山口の毛利博物館が所蔵している。

いくつかの特徴を指摘できる。まず、四季山水図の名に相応しく、四季の区分が明確であること。以前の山水図のほとんどが、四季といいながら季節の配分が明確でなく、季節感もそう強くは感じないのに対して、この図巻は、四季ごとにコンセプトが明確である。しかも、季節それぞれの扱い方も平均しており、季節の内部をさらに初仲晩に区分するなど、体系的な意図が感じられる。

次に、自然と人間との組み合わせが強い印象を与えること。普通、山水図といえば、自然を強調して、人間は加えないか、加えても控えめな扱いなのだが、この絵の中の人間は、自然と同じ重みを以て描かれている。人間を強調するのは、雪舟の傾向性の一つだが、それがこの図巻には顕著に現れている。

そのほか、明確な輪郭線とやわらかい筆致を微妙に組み合わせていること、横長の画面に縦の垂直線を効果的に配している構図上の工夫など、いくつかの特徴を指摘できる。

上は、冒頭の部分。初春の景色である。霞の立ちこめた山中の道を、一人の老人が少年を従えて歩く。この老人には、雪舟自身の姿が重ねあわされている。この老人が今後歩いてゆく道は、彼の歩いてきた道を再現するような意味合いを持っている。



これは仲春の景色。霞の立ちこめた谷を望むように、高台の松が立っている。人間の姿はないが、それを人家が補っている。こんな山の中にも人の営みがあると言うことを、これで表現しているわけだ。



これは晩春の景色。ほぼ真ん中に針葉樹の林を描き、その右手に渓流が流れ、そこを老人と少年が歩いている。この老人も雪舟の分身であろう。針葉樹の林の右手は空間となっており、そこから夏へと視線を誘導する。



これは冒頭の部分を拡大したもの。峻厳な山道をあるく老人の悠然たるさまが伝わってくる。(紙本着色 40×1600cm 毛利博物館)







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