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花菖蒲文禄蘇我・沢村宗十郎の大岸蔵人:写楽




写楽は、寛政六年五月の都座の舞台「花菖蒲文禄蘇我」に取材した大判錦絵十一枚を発表した。これが写楽にとっての華々しいデビューとなった。この舞台は、元禄十四年に伊勢亀山で起きた仇討事件に題材をとった歌舞伎狂言である。この事件そのものは元禄蘇我として人口に膾炙していたが、舞台ではそれを「花菖蒲文禄蘇我」として展開したわけである。

父親を遺恨から殺され仇討を誓う三人の息子のうち、長男源蔵は返り討ちにあってしまうが、まだ幼かった二男源之丞と三男半二郎が成長して後みごと仇討を果すというストーリーである。

この絵は、舞台の主役格である大岸蔵人に扮した二代目沢村宗十郎。大岸蔵人は亀山城主桃井家の家老として、源之丞・半二郎の石井兄弟に同情して彼らを助ける捌き役という役柄である。捌き役という点では、忠臣蔵の大石内蔵助と同じである。大岸蔵人と言う名は、大石内蔵助をもじったものだ。

二代目沢村宗十郎は、大柄で男ぶりがよく、和事、実事、所作事などを広くこなした名優だと言われている。この絵を見ると、冷静沈着で思慮の深い人柄が自ずから伝わってくるような感じがする。

手にしている扇に描かれている波模様は「観世水」といって、沢村家の染模様である。この模様を見れば、これを手にしている役者が沢村宗十郎であることがわかるという仕掛けになっている。







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