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山下白雨:北斎富嶽三十六景




「山下白雨」は、「神奈川沖浪裏」及び「凱風快晴」とともに富嶽の「三役」と呼ばれ、北斎版画の中でもっとも人気の高い一枚である。題名の「山下白雨」とは、富士山の裾のほうで白雨が降っている様子を表している、白雨とは明るい空から降るにわか雨のことだが、北斎はその雨の様子を稲妻で表現しているわけだ。

稲妻を伴うような雨は白雨とは言えないという意見もあるが、ここではそうシャッチョコばらずに見てみよう。

赤黒く染まった富士山の麓に近い方は真っ黒に塗りつぶされ、そこに何条かの稲妻が浮かび上がっている。一方、富士山の上空は晴れているらしく、頂より下の位置に千切れ雲のような雲が浮かんでいる。それらの雲は文様化されて描かれており、劇的な効果を醸し出している。

通常、稲妻は雷雲から発生するもので、その雲は地上から一万メートルもの上空まで厚く立ち込めるものだ。だから、この絵のように、千切れ雲と稲妻を組み合わせるのは、現実の姿から逸脱していると言ってよいのだが、そこは北斎のこと、絵の効果を高めるために、現実を多少デフォルメするのは朝飯前のこと、というのだろう。

なお、この絵の視点は、富士山のやや斜め上から麓の方を見下ろしたような位置にある。飛行機から富士山を眺め下すことができるようになった現代人と違って、北斎が実際にそのような位置に身を置いたとは考えられないから、これは彼の空想による視点だと言えよう。







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