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東海道江尻田子の浦略図、東海道吉田:北斎富嶽三十六景



(東海道江尻田子の浦略図)

東海道江尻の里の田子の浦は、万葉歌人山部の赤人が歌って以来、富士眺望の絶景ポイントとして知られてきた。富士とは切っても切れないところだというので、近年富士が世界遺産に登録されるにあたり、一緒に登録されたほどだ。

田子の浦はまた、古来塩の産地としても知られていた。この絵は、田子の浦の海を前景にして、浜辺での塩造りの様子とその背後にそびえる富士の雄姿をミックスして描いたものだ。

まず、画面手前に大きく描かれた二艘の船と、それらを乗せた波のダイナミックな動きの様子が目につく。一番手前の船は、四人の漕ぎ手が漕いでいるが、何故か右側の列と左側の列が反対の方向を向いている。これでは船は進まないに違いない。また、船の舳先では、男が網を投げ入れているように見えるが、両足を揃えた姿勢と言い、いかにも不安定に見える。

砂浜には、塩釜と思しき構築物がいくつも並んでいる。塩釜と汀の間を男たちが往復しているのは、海水を運んでいるのだろう。富士はたなびく霞の上から、明瞭な稜線を覗かせている。


(東海道吉田)

東海道吉田宿は今の愛知県豊橋市。そこにある富士見茶屋の中から眺めた富士を描いたのがこの絵である。富士は、まるで一幅の絵のように、四角に区切られた枠の中に納まっている。その富士を、茶屋の座敷から女たちが眺め、そのまわりには男たちが思い思いのことをしている。

男たちのうちの左の二人は、客の女を担いできた籠かきか。一人は何やら繕いものに熱中し、もう一人はぼんやりとそれを眺めている。右の二人は通りがかりの旅人らしい。折角の富士見茶屋と言うのに、富士を眺めようとも、女の客の姿を見ようともしなう。自分の世界にはまり込んでいる。

店の看板には「お茶漬け」と書かれているから、あるいはこれから茶漬けで腹ごしらえするつもりなのかもしれない。







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