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雪中虎図:北斎絶筆




「雪中虎図」と言われるこの絵には、「嘉永二己酉寅の月 画狂老人卍老人筆 齢九十歳」との署名がある。嘉永二年寅の月とは、同年三月のことだから、北斎が死ぬ前の月である。この月北斎は満年齢八十八歳であった。

こんなことから、この絵は北斎の絶筆というべきものである。絶筆と言うのに相応しい気品に満ちている。虎を描いたのは、とりあえずは寅の月にちなんだのだろうが、北斎としては、この虎に自分自身を重ねあわせていたのかもしれない。

虎は、雪の降る荒野で、四肢に力をみなぎらせながら、前へ前へと進んでいる。しかも、頭を高く持ち上げて、天を見上げている。あたかも、自分はこれから天上へ翔け上がっていくのだとでもいうかのように。

ここには、自分の一生に対してゆるぎない自信を持ち、しかも後世での往生にも強い信念を持った、一人の男の姿を感じとることができる。

北斎こそは、自分自身にもっとも満足できた日本人だったのだと言えるのではないか。この絵には、そうした北斎の満足感のようなものが込められている。高齢で、しかも死の直前でもなお、こういう境地でいられた男は、男冥利につきるのではないか。







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