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平家納経:やまと絵



(平家納経、薬王品、縦26.0cm)

平家納経は、平家が一門の繁栄を願って厳島神社に奉納した経典類のことである。単に経典を書写したにとどまらず、金泥を散らした豪華な絵を伴い、一種の装飾画としての側面も持っている。また、絵の中に絵文字を忍ばせ、その文字によって経典の趣旨を表現するなど、判じ絵的な面もあわせ持っている。

平安時代末期には、功徳のために写経する風習が広まった。なかでも法華経の写経は人気があった。法華経は、浄土三部経と並んで現世利益的な傾向が強いが、なかでも女人成仏を説く点で、女性に人気があった。また、法華経は、多数の人が分担して写経することを肯定していたので、人々が手軽に行えるという利点もあった。平家の公達も、それぞれ分担しあって法華経を写経し、それを豪華な装飾絵本に仕立てたうえで、厳島神社に奉納したのである。

今日に伝わる平家納経は、法華経三十巻、阿弥陀経一巻、般若心経一巻、平清盛自筆の願文などからなる。

上の絵は、薬王品の見返りと本分の冒頭部分である。金泥を散らした色鮮やかな画面に迫力がある。右下の女性が左上の仏を見上げているという構図で、その間に葦手字と呼ばれる文字を忍ばせてある。それらの文字には、経典の内容が圧縮して表現されている。この画面には、「此命終」、「即」、「安楽世界」といった文字が書かれているが、それは、死後に安楽世界に生まれ変わるという、経本の内容を簡明に表現したものであろう。


(平家納経、厳王品)

平家納経厳王品の見返しの部分。二人の女性が、水辺に坐して読経する様子が描かれている。この女性たちは、経本に登場する浄蔵、浄眼の姉妹であり、水に浮かんでいるのは経本に出てくる動物や浮木のメタファーだとする解釈もある。







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