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粉河寺縁起絵巻:鎌倉時代の絵巻物



(粉河寺縁起絵巻1、縦30.8cm、12世紀後半、粉河寺)

粉河寺縁起絵巻は、紀州粉河寺の本尊千手観音像の造立にまつわる縁起物語を絵巻にしたものである。12世紀の末近く、1170-80年代に成立したものと思われる。長大な一巻もので、火災によって巻頭部を消失し、また焼け焦げた跡が痛ましいが、なお美しい色彩をとどめている。先行の信貴山縁起絵巻と比べると、説話的な興味は薄いが、信仰の暖かさが伝わるとの評価が高い。

前後二段に別れている。前段は、紀州那賀郡に住む猟師が、山中に不思議な光を見て、そこに柴の庵を建てて仏像を安置したいと考えていると、童子が現れて七日間庵の中に閉じこもり千手観音像を作った上で、いづこかへ消え去ったという内容である。

上の絵は、貧しい猟師の住居。絵巻の上下が焼け焦げて破損しているが、その中間の部分に住居の様子と猟師の家族が描きこまれている。右側の縁側に腰掛けているのが猟師で、山中で見た不思議な光のことを、妻に語っているところだろうと思われる。


(粉河寺縁起絵巻2)

これは、草堂にこもっていた童子が消え去ったあと、草堂の内部を開けてみると、千手観音像が現れてきた、という様子を描いた場面。猟師はじめ、その家族や土地の人々が、尊い仏像を前に拝んでいるところである。

後段は、重病に悩む河内の国の長者の娘を粉河寺の千手観音が助けてやったという内容。千手観音は童子の姿をとって長者の家に現れ、娘の病気をたちまちに治したあと、自分の住居は紀州の粉河寺と告げて去る。そこで、長者の一行が粉河寺を訪ねてみると、草庵の中に千手観音像が安置されていたが、そこに見覚えのある衣類が架っているのを見て、童子が千手観音の化身であったことに気づくというものである。


(粉河寺縁起絵巻3)

この絵は、草庵の中にいる千手観音を拝む長者の一行を描く。千手観音の右手には、長者の見覚えのある紅の袴が持たれている。







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