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雪舟の山水小巻




現在山口県立美術館が保存する雪舟の山水図巻は、毛利博物館所蔵の山水図巻が「山水長巻」と呼ばれているのに対比して「山水小巻」と呼ばれる。長巻に比べてもともと高さも幅も短かったことに加え、現存するものは、原本を二つに裁断したものの前半に過ぎないからだ。

そのいきさつについては、徳川時代初期に巻末に付けられた木下延俊の跋文に記されている。それによれば、延俊が江戸の細川三斎邸に呼ばれていたときに、長谷川某なるものが雪舟の山水図巻を売りにきた。彼らはこれを二分して分け合うこととし、延俊が前半を、三斎が後半をとったという。この二点のうち、後半部は明暦の大火で消失してしまったが、前半がいまに残った。といっても原作のままではなく、かなりな補筆の後が見られる。

長巻とこの小巻の画法を比較すると、一目でわかることがある。長巻がはっきりした線をもちいて明瞭に描かれているのに対して、この絵はやや崩れた印象を与えるのだ。この時代、水墨画の描き方には、書法の楷行草の三体に対応する形で、楷体、行体、草体の区別があったが、長巻が楷体で、破墨画が草体とすれば、この絵はその中間の行体にあたるといえる。

雪舟は、この行体の画法を渡明時代に知った元の画家高彦敬に学んだ。高彦敬の絵はいまに伝わっていないので、その画法を詳しく確かめることは出来ないが、南画風のやわらかい筆致であったようだ。

上は、冒頭部分。全体としてやわらかい筆致がうかがえる。背景の森を墨をぼかして表現しているところなどは、破墨画に通じるところがある。



これは冒頭に続く部分。補筆の跡が明瞭である。一つには、左端の部分が後に付け足されていること。この付け足しがあるために、画面全体のリズムが損なわれているとする指摘もあるが、素人目にはなかなか判らない。

前景の帆掛け舟も後の付け足しだろうと思われる。背景との間で、かなりバランスを失している。この大きさなら、むしろ背景に配したほうが自然である。







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