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可翁:室町時代の水墨画




可翁は鎌倉時代末期から南北朝時代にかけて活躍した。我が国の水彩画の伝統の先駆者ともいえる存在である。初期の水墨画は禅寺を舞台にして展開されたが、可翁も東福寺所縁の禅僧だったと思われる。その画風は禅味を感じさせるもので、我が国初期の水墨画が、それ以前の白墨画と呼ばれるものから、本格的な水墨画に移行していく結節点のような位置付けがなされている。

上の絵は、「蜆子和尚図」。蜆子和尚とは,中国の伝説上の人物。水辺で暮らし蜆やエビを食べながら悟達した生き方をしていたといい、禅僧があこがれるような存在だった。禅僧のあこがれとしては宗祖達磨大師があり、ほかに寒山十得とか布袋などが、理想像として水墨画の画題によくなった。

この作品は、可翁の禅僧としての余技だと思われるが、その余技のなかに自分の理想像を描き入れたのだと思う。(南北朝時代 紙本墨画 86.8×34.5㎝ 東京国立博物館 重文)



これは、「寒山図」。「蜆子和尚図」と並んで、禅僧可翁の理想像を表現したものだ。全体に禅の風雅がただよう作品である。とくに、横顔を見せた寒山の姿には、飄々とした風情が感じられ、世間を超越した禅の境地のような雰囲気が滲みでている。(南北朝時代 紙本墨画 98.6×33.5㎝ サンリツ服部美術館 国宝)



これは、「竹雀図」。雀が竹の葉先を見上げている構図だが、余白の多い画面のなかに、竹と雀を巧みに拝して、静寂の中の動きのようなものを感じさせる。筆致は緩急自在といえ、強さと繊細さがあいまじわる。禅には「水鳥樹林悉皆是仏」という言葉あるが、その言葉とおりの膳的な境地を表現したものだ。(南北朝時代 紙本墨画 90.5×30.1㎝ 大和文華館 重文)





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