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宮本二天:近世の水墨画




二天は剣豪宮本武蔵の雅号で、水墨画の印として用いていた。また武蔵の剣法の流儀名として二天一流と称した。武蔵は剣法家ではあるが、絵や彫物にも才能を示し、素人の余技ながら優れた作品を残している。徳川時代初期の人ではあるが、室町時代の墨画の延長として、ここに紹介しておきたい。

宮本武蔵の剣豪としての生涯はさまざまに脚色して伝えられているが、画家としての業績はほとんど知られていない。誰にいつ学んだかも明らかではない。おそらく、晩年になって、宋元画などを手本にして、見様見真似に描き始めたのだろうと思われる。そのわりにすぐれた感性を感じさせる。

上は、「鵜図」。断崖で休息する鵜の姿をとらえている。おそらく魚を呑み込んだばかりなのだろう、首のあたりが膨らんでいる。こうした描き方は、他には見られないもので、武蔵の素人画家らしい観察力を物語っている。なお、この作品は熊本藩士寺岡家に伝わったもの。熊本藩の客分として過ごした武蔵晩年の作である。(17世紀前半 紙本墨画 120.6×56.4㎝ 永青文庫 重文)



これは、「布袋見闘鶏図」。闘鶏に見入っている布袋を描いたものだが、これには梁楷作の原本があるという。それと比べると、武蔵らしさがよくわかる。原本が、おおらかでのびのびとした布袋の表情をとらえているのに対して、この図の中の布袋には、人を近づけないような冷たさがある。(17世紀前半 紙本墨画 71.2×32.6㎝ 松永記念館)



これは、「枯木鳴鵙図」。渡辺崋山が江戸市中で発見したという。いつ、どこで描かれたかはわからない。おそらく「鵜図」同様晩年の作と思われる。枯れ枝の先端に止まって鳴いているモズを描いたもの。その筆致には張り詰めたような緊張感がただよっている。(紙本墨画 124.8×54.0㎝ 和泉市久保惣記念美術館 重文)





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