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松林図屏風:長谷川等伯




「松林図屏風」を等伯は、息子久蔵と一門を連れて祥雲寺の障屏画を制作して間もない頃に描いた。日本の水墨画史上最高傑作の一つのとされるこの作品を等伯は息子の死の直後に描いたのだったが、この作品には等伯の息子を失った悲しみが込められているようである。

一見してわかるように、従来の図屏風の定石を大きく逸脱している。左右両隻には構図上の対応性はみられず、墨の施し方も極端に抑制されている。その抑制のなかから、静寂が、それも静寂の音が伝わって来るようである。

上は左隻。画面中央の大きな空間を利用して、一群の松を描いている。それらの松は、さまざまな段階の濃淡で表現され、濃淡の度合いによって、奥行きをあらわしている。淡い方は奥へ、濃い方は前へ出て来るように工夫されているわけだ。



これは右隻。左隻とは構図上のつながりはほとんどない。右端にはみ出すように描いているのは、画面に変化をもたらすつもりか。だが、画面全体からは、変化の感覚よりは、静寂が伝わって来る。(紙本墨画 六曲一双 各155.1×345.1cm 東京国立博物館 国宝)





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