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蓮池水禽図:宗達の水墨画




宗達が水墨画の傑作を生みだすのは、中期以降のことだ。宗達の水墨画の最大の特徴は、それが金銀泥絵の延長として描かれたことだ。銀泥は、水墨と共通する性質があるので、銀泥画が自然に水墨画に移行できるということもある。その境界を感じさせるのが、「蓮下絵百人一首和歌巻(断簡)」だ。この絵は、銀泥で描かれたものだが、一見したところ水墨画とほとんど同じ印象を与える。宗達はおそらく、銀泥画に成熟したあとに、水墨画に進んだのだろうと思われる。それは家業の金銀泥絵から出発した宗達にとって、飛躍だったにちがいない。

「蓮池水禽図」は、宗達水墨画の最高傑作との評価が高い。構図は非常に単純だが、単純さゆえに、独特のリムズ感と余韻を感じさせるものになっている。そのリズム感は、たとえば、画面上部の蓮の花が右手に傾いているのにたいして、二羽のかいつぶりが左方向に動いていることで、動きの対比とバランスを感じさせるところに現れている。

宗達水墨画の最大の特徴は、たらしこみ技法を駆使したことにあるが、この絵ではその技法は控えめに用いられ、画面の雰囲気を乱すことのないように配慮されている。



これは、二羽のかいつぶりのうち、上部のものを拡大したもの。形態が実にリアルで、動きを感じさせるうえに、目の表情もゆたかである。水禽の目をこのように微細に描いたものは、宗達以前にはいなかったのではないか。

(紙本墨画 116.5×50.3㎝ 京都国立博物館 国宝)





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