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布袋図:白隠の漫画




七福神のうちで白隠がもっとも多く描いたのは布袋だ。七福神は日本の風習だが、布袋は中国に実在した人物がモデルになっていると言われる。彼は僧侶なのだが、盛り場に出没し、おどけた行為をしては、見物人から金や物を乞うていた乞食坊主だった。ところが実は弥勒菩薩の化身だったということがわかり、庶民の信仰を集めるようになった。その伝説が日本に入ってきて、七福神の一人に数えられるようになったというわけである。

布袋は庶民に親しまれるキャラクターなので、白隠もそれを踏まえて、親しみやすいイメージに描いている。これはそんな布袋の姿の一面を描いたものだ。長細い紙を丸めて、その隙間の間から顔を出している姿であるが、その紙に書かれた文字から、これにはトリックがあることが明らかになる。

賛を読むと、右手の文字は「在青州作一領」、左手の文字は「布衫重七斤」とある。つなぎ合わせれば、「青州に在って一領の布衫を作る、重さ七斤」となる。これは禅の公安を集めた「碧巌録」に出てくる言葉で、「僧、趙州に問う『万法は一に帰す、一は何れの処にか帰す』への回答とされるものである。

面白いのは、この文のうち後半の「布衫重七斤」の部分の文字が反転していることである。つまり布袋は細長い紙の面を途中で反転させることで、それをメビウスの環のように表しているわけである。



これは反転した部分を拡大したもの。この部分を白隠は、紙の裏側に書いた。

(紙本墨画 42.0×48.8cm 永青文庫蔵)







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