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人物愛虎図:渡辺崋山の絵画世界




若い頃の崋山の絵には、中国風のものが多い。崋山の師匠金子金陵が清の画家沈南蘋の影響を強く受けていたというから、そのせいかもしれない。日本画は、時代時代で大陸絵画の影響を受けてきたものだ。崋山はやがて、西洋絵画の技法をも意識的に応用するようになるが、若い頃にはもっぱら大陸の絵画を模範にしていた。

「人物愛虎図」と題したこの絵は、中国風の格好をした人物と、それに寄り添う虎をモチーフにしている。人物は後ろ手を組んで、あらぬ方を眺めている。その膝元に虎が座り、人物の衣装越しにこちら側をうかがっている。その表情が、虎ながらなんともユーモラスだ。

墨で輪郭を表現し、その合間の空間を淡彩で彩っている。全体のイメージとしては、淡彩を施した墨画といった風情だ。

賛には、「精一杯無私虎能馴、邪僻不慈嬰児不親」とあり、「杏花園」との署名がある。杏花園は、江戸の狂歌師太田南畝の号。狂歌を杏花と洒落て言ったのである。南畝は、文化年間にはかなりの高齢だったはず。谷文晁と交友があったらしいので、崋山は谷文晁を通じて南畝と知り合ったのだろう。

(文化十二年 紙本墨画淡彩 123・8×48.5㎝ 静嘉堂文庫)





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