日 本 の 美 術
HOMEブログ本館日本文化美術批評東京を描く水彩画 | プロフィール掲示板



市河米庵像:渡辺崋山の絵画世界





市河米庵は、漢詩人市河寛斎の長男で、自身漢詩人であったとともに、幕末を代表する書家であった。篆刻を好み、全国に50以上の石碑が残されている。崋山との関係は、あまり深いものではなかったらしい。崋山が蛮社の獄で捕らえられ、証人尋問を受けた時には、そんな画家は知らぬと答えたそうだ。絵画が二人を結びつけていたようだ。

佐藤一斎の肖像もそうだったが、この絵の中の米庵も、狷介なイメージを感じさせる。松崎慊堂像と見比べると、非常に対照的な描き方である。慊堂は、暖かい人柄が伝わってくるように描かれている。一方米庵には、人間的な暖かさは感じられない。崋山はおそらく、米庵という人物の本質を見抜いていたのだろう。崋山の肖像画には、単に人間の外面を写すだけではなく、その内面に迫ろうという迫力がある。

この絵には正本も伝わっているが、稿本であるこの作品も高く評価されている、正本以上の評価といってよい。

なお。この肖像画は、米庵六十歳のときのものだが、その年に米庵は、念願の子どもを得ている。そちらのほうは、意欲的だったわけだ。

(天保八年 紙本墨画淡彩 39.2×27.8㎝ 京都国立博物館 重文)





HOME 渡辺崋山の絵画世界次へ








作者:壺齋散人(引地博信) All Rights Reserved (C) 2013-2021
このサイトは、作者のブログ「壺齋閑話」の一部を編集したものである