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敵討乗合話・三代目市川高麗蔵の志賀大七:写楽



(三代目市川高麗蔵の志賀大七)

写楽は、寛政六年五月の桐座の舞台「敵討乗合話」に取材した大判錦絵を、合せて七枚描いた。本舞台から六枚、脇舞台の「花菖蒲思簪」から一枚である。「敵討乗合話」は、二つの仇討狂言「敵討巌流島」と「碁太平記白石噺」をミックスしたものらしいが、この時の舞台では、「碁太平記白石噺」のほうが中心になっていたようだ。

「碁太平記白石噺」は同名の浄瑠璃を歌舞伎狂言に仕立て直したもので、姉妹の敵討ちがテーマである。父親を殺された宮城野としのぶの姉妹が、二人で力を合わせて親の仇を取るという話で、二人の出身地が白石であるところから白石話という。

これは、第三幕の片瀬村の段で、姉妹の父親である浪人松下造酒之進を、志賀大七が殺害する場面。大七の方は、刀に手をかけ、今にも抜き身で襲い掛かろうとする勢いだが、表情はあくまで冷静沈着である。そこのところがいかにも悪人らしいすごさを感じさせる。

大七を演じた市川高麗蔵は、当時人気急上昇中で、この舞台では敵役とはいえ、主役に準ずる役を務めている。高麗蔵は後に五代目松本幸四郎を襲名した。


(尾上松助の松下造酒之進)

これは、志賀大七に殺される浪人松下造酒之進。零落した浪人らしい憔悴ぶりがよく表れている。彼は大した理由もなく大七に殺されるのだが、その往生際で、理不尽に殺される無念さを、扇を握りしめた右手で表現している。







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