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四代目松本幸四郎の山谷の肴屋五郎兵衛:写楽



(四代目松本幸四郎の山谷の肴屋五郎兵衛)

山谷の肴屋五郎兵衛は、宮城野・しのぶの敵討ちに手助けする侠気のある人物である。第五幕の山谷の仮宅の場面で登場する。自分の家の二階を妓楼舞鶴屋に貸しているが、そこへ遊女しのぶの姉宮城野が訪ねてくる。姉妹の話を聞いた五郎兵衛は、なんとか彼女らに本懐をとげさせてやろうと思い、色々と思案をめぐらす。

この絵は、そんな五郎兵衛の思案するさまを描いたものだ。肴屋らしく、威勢よくねじり鉢巻きをしているが、その表情には冷静沈着な様子がただよっている。特に、キセルを口もとからはずし、右手を左袖に突っ込みながら、眉に皺を寄せてうつむいているところが、捌き役としての風格を感じさせる。

この役を演じた松本幸四郎は、和事・実事を通じて、当時もっとも風格ある役者の一人だった。当たり役は幡随員長兵衛だったが、この五郎兵衛役も、「立役極上上吉」と評された。


(中島和田右衛門のぼうだら長左衛門と中村此蔵の船宿かな川やの権)

この二人の役は、第五幕の仮宅の場面で客として登場するが、役柄としては重要ではない、端役である。写楽には、このような端役を取り上げるという側面もあった。

左手の此蔵の描き方が、他の役者とは大分違っている。眼の描き方を始め、どことなくリアルなタッチが感じられる。そんなこともあって、これは写楽の自画像ではないか、との憶測がたったこともあった。







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