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武州玉川、甲州犬目峠:北斎富嶽三十六景



(武州玉川)

多摩川は大きな川だから、下流では対岸が霞んで見えただろう。だからこの絵は、川幅からして中流域を描いたのだとわかる。どのあたりかははっきりしない。川の中ほどには、客と荷を積んだ渡し船が浮かび、手前の河原では、荷を積んだ馬を引っ張る男が渡し船の様子を眺めている。

川を画面の斜め軸に沿って描き、それに加えて波の文様を細かく描き込むことで、急な流れをイメージさせようとしている。そのせいか、船頭は、流されまいと必死に漕いでいるように見える。

富士山は、霞の上に頭を出しているように描かれている、霞と川の境界は一部ぼやけている。そうすることで、富士が遥か彼方にあるということを強調しているのだろう。その割には、富士のサイズは大きい。


(甲州犬目峠)

甲州犬目峠は、今の山梨県上野原市の西部、権現山の麓にある。中央高速の北側だ。そこからだと今でも、富士がくっきりと見える。徳川時代の昔なら、今より空気も澄んでいただろうから、富士は、この絵のように細部までくっきりと見えたに違いない。

富士の麓を霞でぼんやりとさせるのは、北斎の常套手段だ。その霞を挟んで、向う側に富士が、手前に犬目峠の稜線が描かれている。稜線の尾根道を、旅人らしい人々が歩いていく。画面全体に静寂感が漂っているような印象を与える。








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