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尾州不二見原:北斎富嶽三十六景




尾州不二見原は、いまの名古屋市中区富士見町あたりのことをさすらしい。現在は名古屋市の中心部近くで、辺りは建物が林立し、富士は見えないと思うが、徳川時代にはこのように、遠くに見えたのだろう。もっとも現在の地図で見ると、富士見町と富士山との間には、小さな掘割があることになっていて、この絵の内容とは多少様子が違うようだ。

不二見原と言う名を裏切るように、この絵の中の土地は高台になっている。高台の斜面が石組になっており、その下に平地が広がっている様子からも、それがわかる。

それはともかくとして、この絵のミソは、大きな円の中に小さな三角形を描き込んだところにある。大きな円は桶で、小さな三角形が富士だ。桶が描く大きな円は、北斎愛用の「ぶんまわし(コンパス)」で線を引いたのだろう。

部材を円柱状に組んで箍で締めた後、桶の内側に職人が入り込んで、槍鉋で内部の仕上げをしている。槍鉋はどんな用途にも使える万能の鉋だ。仕上げが終れば底板を嵌めて製品としての桶になる。それに更に蓋を加えれば、樽になる。

徳川時代には桶の用途は非常に広かった。貯蔵に用いられたほかに、盥にもなれば風呂にもなる、また巨大な桶は酒を醸造するのに用いられた。だから、桶の職人は、製造から修理まで、仕事には事欠かなかっただろう。

それにしても、桶の描く円の中に富士を嵌め込むというのは面白い発想だ。ここにも、北斎の遊び心が垣間見える。







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