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駿州大野新田、駿州片倉茶園ノ不二:北斎富嶽三十六景



(駿州大野新田)

駿州大野新田は、いまの静岡県富士市の南部。新田というとおり、沼沢地を干拓してできた土地だと思われる。この絵の中景には、その沼沢の名残ともいえそうな湿地帯が広がり、その向こう側に、富士が白化粧をした姿を見せている。

この絵のポイントは、画面手前に配された五頭の牛と、何人かの人々だ。北斎には、絵のポイントを画面の手前に配する傾向が強いが、これもその一つの例と言える。また、もう一つのポイントである富士のほうは、画面上部の端に頭をぶつけるように描かれている。これもまた、西洋画の伝統では邪道とされる描き方だが、北斎の場合にはそれなりに決まっている。

牛の描き方が面白い。牛は鈍重な歩き方をするもので、持ち上げた足をそのままべったりと地面に下す。ところがこの絵の中の牛は、足の裏が地面から離れているように見える。これは馬が見せるギャロップに近い。

少年を含めた男たちがみな草鞋を穿いているのに対して、前方の二人の女性は、牛のように荷を担ぎ、裸足のままである。


(駿州片倉茶園ノ不二)

駿州は徳川時代から茶の産地として知られていたが、片倉茶園がどこにあるのかは不詳。これは、そこにあるという茶園の光景を富士と絡ませながら描いたということになっているが、茶園にしてはおかしなことが多い。

絵から見て、これは茶の収穫の様子らしいが、収穫時の茶畑は青々としているはずだ。この茶畑は薄茶色で染められており、茶畑と言うより、水田か麦畑を思わせる。

茶の葉を摘んでいる人々の描き方も変わっている。特に、長い台に並んで腰かけている六人の人々。彼らには働いている様子は感じられない、むしろ遊んでいるようである。

こんな具合で、細部にはわけのわからぬ点が多いが、全体的イメージとしては、田園地帯の長閑な雰囲気が伝わってくる。







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