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北斎千絵の海(一):総州銚子、五島鯨突


北斎は、富嶽三十六景とほぼ相前後して「千絵の海」と題する連作を発表した。海や川における漁労と水の造形を主題としている。「千絵の海」という題名は、人間と自然との闘いを、「知恵比べ」に比しているのだろう。

10枚が今日に伝わっている。富嶽三十六景が大判錦絵であるのに対して、こちらはその半分の大きさ(だいたいB5判)の中判錦絵である。


(総州銚子)

総州の銚子は、豊かな漁業資源を背景に、昔から漁労の盛んなところである。そこはまた、年中強風が吹き、大波が荒れることでも知られていた。北斎は、そのような荒々しい自然と、それに立ち向かう人々のエネルギーを対比させるようにして、一幅の絵を描いた。これは単なる風景版画と言うよりも、自然と人間との戦いをテーマにした、すぐれて精神的な絵である。

手前の浪は、右手にはだかる岩を削り取るようにして引いてゆき、そこへ向かって沖の方から別の浪が巨大なスケールで押し寄せてくる。引く波も、寄せる波もそれぞれ船を乗せている。船には漕ぎ手が乗っているが、彼らの漕ぐ力を無視するかのように、波が船を運んでゆく。


(五島鯨突)

九州の五島列島は、昔から捕鯨が盛んだった。捕鯨の方法は突き取り漁法と言って、数艘の船で鯨を取り囲みながら、銛で突いて殺すというものである。

この絵では、かなり大きな鯨を、三十艘ばかりの船で取り囲みながら、鯨を入り絵に追い込んでいる様子が描かれている。鯨は巨大な波しぶきをたてながら、もがいているように見えるが、銛はまだささっていないようである。恐らく、いくほどもなくして、船団が鯨に近寄り、一斉に銛を打ち込むのだと思われる。

以上二枚を通じて、ベロ藍(プルシャンブルー)が効果的に使われている。







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