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葛僊移居図:富岡鉄斎の世界




葛僊とは、神仙術の書として有名な「抱朴子」の著者葛洪のこと(僊は、仙人というような意味である)。葛洪は、日頃不老不死の術について研究していたが、不老不死の薬金丹を作るために、羅浮山に家を作って移り住んだ。その移居の様子は古来格好の画題とされ、多くの作品が作られてきた。鉄斎のこの作品もその一環に加わるものである。

そそり立つ岩山を背景にして小川が流れ、山深い山中のイメージをかもし出している。そこを供の者を従えた葛洪が進んで行く。葛洪自身は牛に跨っている姿で表わされている。その視線は遥か彼方に向けられているように見えるが、どこか仙術に相応しい場所を探しているのだろうか。

賛には次のように記されている。「晋の葛洪、字は稚川、医術を練磨し、長く聖胎を養う、かつて羅浮山に移って丹を練る、著もって世に伝う、詩あり曰く、洞陰冷冷、風珮清清、仙居長く期す、花木長く栄ゆ、と。真に上清の金仙の語なり」

この作品は、石黒忠直という医師の依頼で製作したもの。医師からの依頼であることから、医術の伝説的な人物葛洪をモチーフに選んだのだろう。

(1911年 絹本着色 142.5×42.5cm)





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