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一寸見なんしことしの新ぱん:河鍋暁斎の戯画




「一寸見なんしことしの新ぱん」と題する三枚組の浮世絵は、幕末の物価騰貴を痛烈に批判したものだ。文久年間から上がり始めた物価は、慶應年間に入るとすさまじい勢いを呈し、この浮世絵が出回る直前(慶應二年)には、関西では米価が十年前の十倍、江戸でも四倍に跳ね上がる様相を呈した。そのため庶民の生活が窮迫し、米一揆や打ちこわしが各地で発生したほか、江戸近傍では武州一揆と呼ばれる大規模な騒乱が起こった。

この絵はそうした世相を念頭に描かれたものであろう。天狗の鼻や高下駄、筑波山など関東周辺の高い山によって物価の高さをあてこする一方、富士山の張りぼてを持ち出して来て、それに群がる人足の顔にそれぞれ商品名を書き、それらが山のどの高さに位置しているかに応じて、その商品の価格の状態を提示している。一番上には米や薪などの生活必需品、一番下のふもとには給金を置くことで、収入は上がらないのに物価ばかり上がることへの批判としている。



これは右側の一枚。高下駄を履いた天狗の前に町人たちが膝まづいているが、よく見ると情けない顔をしたものと嬉しそうな顔をしたものとがいる。情けない方は物価の上昇を抑えてくれるように懇願し、うれしそうなほうは物価の上昇で金儲けをしたことを喜んでいるものと見える。そういう連中が打ちこわしの標的にされたのであろう。

左側の二枚には異本がある。この絵では、一番左下にいる二人が、米俵を前にしてなにやら勘定をしている様子に見えるが、異本ではその米俵が髑髏の山になっている。なお「ことしの新ぱん」とは、年が明けてまもなく発行されたできたてほやほやの錦絵という意味であろう。

(1867年 三枚組大判錦絵)





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