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群猫釣鯰図:河鍋暁斎の動物戯画




「群猫釣鯰図」と題したこの絵は、題名通り鯰を釣る猫たちを描いたものだろう。八匹の猫が木の上から、下の川で泳いでいる鯰を釣り上げよとしているように、一応は見える。川の流れは画面には描かれていないが、構図からそう読み取れるようにもできている。猫たちが木の枝から身を乗り出して、下をのぞき込んでいることからも、また、彼らが見ている鯰が上から描かれていることからも、この鯰が木の下を流れる川に浮かんでいるような見え方になるわけだ。

だが、視点をすこしずらすと、鯰は川に浮かんでいるのではなく、いままさに木の枝から落ちて、下のほうへ落下しているところだと見えなくもない。猫たちのあわてているらしい様子が、何か大事なものを落としたようにも見えるのである。大事なものを落としたので、あわててそれを取り戻そうとして、木の枝から身を乗り出している。そのように見えないこともない。

このへんは暁斎の遊び心が働いているところだと思う。ただ単にモチーフをそれらしく再現するだけでなく、そのモチーフに意味を持たせる。その意味も、一義的なものではない、多義性に富んだものである。多義性は遊びにつながる。暁斎の絵は常にそうした遊び心を感じさせる。



これは猫たちの部分を拡大したもの。群れの最後尾で年老いた長老猫が采配を振るっている。一番手前の猫はなにやらひげのようなものを銜えているように見えるが、これは鯰が下へ落ちるときに、猫がむしり取ったもののように見える。この猫を含め、猫たちの表情は真剣そのものだ。

(明治四年ころ 紙本墨画淡彩 129.3×37.8cm 河鍋暁斎記念美術館)






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