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幽霊図:河鍋暁斎の妖怪画




河鍋暁斎は妖怪画を多く描いたが、その中には幽霊を描いたものも多い。親しくしていた五世尾上菊五郎が幽霊の絵を集めており、それを見せてもらう一方、自分にも描いてほしいと頼まれたりして、幽霊に興味をもったこともある。その幽霊の描き方だが、これには徳川時代に流行した幽霊の芝居とか、それ以前から伝統的に伝わってきた幽霊のイメージが働いたものだと思われる。日本人が持ってきた幽霊のイメージは興味深い研究課題たりうるが、暁斎の幽霊画はそれにひとつの材料を供するものだと思う。

この絵は、菊五郎の依頼を受けて描いたもの。菊五郎は四谷怪談などの幽霊ものが得意で、自ら幽霊に扮したが、その参考として幽霊の絵を集める一方、妖怪画で知られる暁斎に幽霊のイメージを描いてくれるよう頼んだということらしい。

行燈のほのかな明かりのなかに幽霊がぬっとあらわれた図柄だ。日本の幽霊は白いかたびらを着て、足が見えないことが特徴だということになっているが、暁斎のこの絵は、その特徴をよくあらわしている。この幽霊も肌身に白いかたびらをまとい、足が見えない。顔つきはかなり恨めしそうに見えるが、これは暁斎の亡妻阿登勢の臨終の床の死顔だそうだ。この絵から見る限り、暁斎の妻はこの世に未練を残しながら死んだようだ。



これは幽霊の上体の部分を拡大したもの、顔半分から右肩にかけて強い光が当たっている一方、肌や足元の部分はぼかされている。なんとも不気味な感じが伝わってくる一枚だ。

(明治初年頃 紙本墨画 105.7×32.0㎝ 個人コレクション)






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