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北海道人樹下午睡図:河鍋暁斎の仏界画




河鍋暁斎は、妖怪や地獄の絵と並んで、極楽往生の様子も描いた。「北海道人樹下午睡図」と題するこの大作は代表的なものだ。普通の釈迦の涅槃図とは異なり、遊び心が込められている。その遊び心は、涅槃に午睡の字を当てているところにもうかがえる。この絵は釈迦ならぬ北海道人が樹下に昼寝をしている様子を描いているのだ。

北海道人とは、北海道探検で知られる松浦武四郎のこと。その松浦からの依頼を受けて、暁斎は明治十四年にこの絵の制作にとりかかり、五年かけて完成した。依頼の趣旨は、武四郎本人を釈迦に見立てて、その入寂の様子を描いてほしいと言うものだった。だからこれは武四郎の遺影として描かれたものと言ってよい。生前に遺影を用意しておくことはいまでは普通のことだが、松浦武四郎はこういう形で人の意表をつく遺影を残したというわけである。

画面の真ん中には、分厚い畳の上で松浦武四郎が手枕をして寝そべっている。入寂するつもりなのだろう。その右手、武四郎の足元には黒い喪服を着た女性が畳に取りすがって泣いているが、これは武四郎の妻ということだ。手前のほうには、天神、観音、不動、布袋のほかさまざまなものどもが集まって来て、武四郎の入寂を悲しんでいる。

武四郎のすぐ上手には雛壇が設けられさまざまなものが飾られている。これらは武四郎が収集したものだとされる。画面最上部には、雲に乗った女性たちが描かれている。これは本来阿弥陀様一行の来迎であるべきところ、遊女たちを配したのは、生前の武四郎の挙動にちなんだのだと言う。



これは武四郎の寝そべっている様子を拡大したもの。巨大な数珠を身にまとわせ、その先にはなぜか、火の用心の札がつけられている。

(明治19年 絹本着色 152.6×84.2㎝ 松浦武四郎記念館 重文)





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