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菊のおも影:月岡芳年




浮世絵師といえば、役者絵を描くのが当たり前であった。大衆の需要が大きくて、手っ取り早く金を儲けることができた。なにしろ写真もなく、当然週刊誌もない時代だから、浮世絵が芸能界を大衆に結びつける最大の媒体だった。

役者絵は普通生きている役者の表情を捉えたものだが、中には死んだ役者を描いたものもあった。だいたい人気役者の生前の活躍を忍び、法要の追善がわりに作られたものだ。芳年の「菊のおも影」と題したこの作品はそうした追善絵の一枚。万延元年六月に没した四代目尾上菊五郎をとりあげたものだ。

右側に生前の菊五郎が描かれている。菊五郎は袈裟姿で払子を右手に持っている。その視線の先には、閻魔大王等の一行が描かれている。その一行もまた、既に死んだ役者たちからなる。閻魔大王は四代目中村歌右衛門、傍らの役人は八代目市川團十郎、中程上部の二つの顔は、五代目市川海老蔵、松本錦升といった具合だ。

菊五郎の背後にいくつかの人影が描かれているが、これらは菊五郎が生前得意とした芝居の登場人物をあらわしている。

(万延元年<1860> 大判錦絵二枚続)





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