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雛市:鏑木清方




鏑木清方は、挿絵画家として出発したこともあって、初期の絵には物語性を感じさせるものが多い。「雛市」と題したこの絵は、清方23歳の時の作品で、やはり物語性を感じさせる。モチーフは、雛市での一こまだが、その一コマの中に、ひな人形をめぐって人々の見せる表情が、何かを物語っているように見える。

雛人形といえば、いまでは浅草橋の問屋街が思い浮かぶが、明治の初期までは日本橋の十軒店(いまの室町付近)に人形店が集中していた。この絵は、そのうちの一軒の前で立ち止まり、人形の物色をしている母娘と、その周辺にいる人々を描いたものだ。娘が人形をねだり、母親がそれを物色する様子が伝わって来る。

母親の視線の先にある人形を、使いの小僧や青年らしいものも眺めている。かれらが視線を共有していることがわかる。右手の男とその隣の子守娘は表情が見えないが、そのかわりを履物がつとめている。子守娘の履物は、すり減った草履のようである。一方人形をねだる少女は、かわいらしい駒下駄を履いている。たったこれだけの光景の中にも、ささやかなドラマを感じさせてくれる。

(1901年 絹本着色 136×69㎝ 北野美術館)





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