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曲亭馬琴:鏑木清方




明治四十年(1907)、文展が創設された。これは京都を中心とする伝統的な日本画の団体日本美術協会と、岡倉天心らの日本美術院が合同したもので、今の日展の前身というべきものだ。その第一回の展覧会に、鏑木清方は「曲亭馬琴」と題する一点を出展した。結果は落選であった。入選した友人にそのわけを聞くと、語ること多きに過ぎたという批評を受けた。清方はその批評をもっともだと思ったが、後悔はしないと言った。自分としては自信があったのだろう。

この絵は、晩年の馬琴が長男の嫁おみちを相手に、物語の口述筆記をしている場面をモチーフにしたものである。いかにも挿絵作家としての清方の面目を見ることができる作品だが、本物の絵というものは、そういうものではないのかもしれない。絵にも物語があっておかしくはないが、しかし特定の史実を忠実に再現したようなものは、やはり絵としては、うるさく感じられる。

おみちはもともと字が読めなかったところ、馬琴が手とり足取り教えて覚えさせたという。若くて覚えが早く、舅馬琴の要求に応えて、口述筆記をした。この絵には、そんなおみちが、坊主頭の馬琴の語る声に、必死に耳を傾ける彼女の表情が、印象的に描かれている。背後にいる子どもたちは、馬琴の孫であろう。

(1907年 絹本着色 116×174㎝ 鎌倉市)





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