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蛍:上村松園の美人画




松園は蛍が好きと見えて、多くの作品に蛍を重要な小道具として登場させている。ずばり「蛍」と題したこの絵は、最晩年の「新蛍」や絶筆となった「初夏の夕」とともに、松園の代表作の一つである。

この絵について松園は次のように書いている。「この図は美人が蚊帳を吊りかけているところへ夕風に吹かれてフイと蛍が飛び込んだのを、フト見つけたところです。蚊帳に美人と云ふと聞くからに艶やかしい感じを起させるものですが、それを高尚にすらりと描いてみたいと思ったのが此図を企てた主眼でした。良家の婦人を表わしたのです」

この絵には、手本があると指摘されている。歌麿の「絵本四季花(上)雷雨と蚊帳の女」である。その絵は女が蚊帳を吊る周囲に大勢の人達が猥雑な雰囲気をかもし出している。その絵の中から、女が蚊帳を吊るところだけ取り出して、しかも女の雰囲気を上品なものに変えたということなのだろう。

歌麿の絵では、蚊帳を吊る女の視線は、足元でじゃれついている幼い子どもに注がれているが、松園のこの絵の女は、絵の主役である蛍に注がれているというわけである。

(1913年 絹本着色 175.0×98.0cm 東京、山種美術館)





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