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むしの音図:上村松園の美人画




上村松園は、簾越しの美人の構図が好きだったとみえて、幾つも描いている。蒸し暑い京都に簾は欠かせない小道具であり、かつ古きよき日本を感じさせる風物詩でもあった。

「むしの音図」と題したこの絵は、簾越しに美人が顔をのぞかせ、屋外で泣いている虫の声に聞き入っている構図だ。これより数年前に、松園は「虫の音」と題する作品を描いているが、それは徳川時代初期の風俗画「彦根図屏風」を下敷きにしたものだった。そこで松園は、「彦根図屏風」のイメージを離れて、美人が純粋に虫の音に聞き入るところを、改めて描きたかったのだろうと思う。

簾をちょっぴりこじあけて、その隙間から顔をのぞかせている美人は、髪型等からして、松園得意の古風な女ではなく、現代的な雰囲気をただよわせている。現代的といっても、振袖にすだれの組み合わせは、徳川時代の雰囲気を感じさせる。ただ、簪とか団扇に現代の風を感じ取ることができる。

(1015年 絹本着色 125・0×42.0cm 埼玉県川島町 遠山記念館)





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