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花がたみ:上村松園の美人画 |
「花がたみ」と題するこの作品は、松園の画業の転機となったものと言われる。それまでは、浮世絵や徳川時代の美人画を参考に、古い時代の美人のたたずまいを淡々と描いた作風のものがほとんどだったのだが、この「花がたみ」を転機として、能に題材をとったドラマチックな作風へと変化していった。 松園はもともと能が好きで、自分の唯一の趣味は謡曲だといっているほどだ。その謡曲を松園は金剛流の家元金剛巌にならっていた。だから松園の、能に取材した作品は、金剛巌のイメージが色濃く反映している。 この「花がたみ」という曲は、継体天皇にまつわる故事を能に仕立てたもの。天皇が在野時代に親しくしていた照日の前が、即位した天皇の前に現われて、連綿と慕情を語るというような内容の曲である。この絵は、その照日の前の狂おしいほどの恋慕の情をイメージ化したものだ。 これを描くにあたって、普通はモデルを用いない松園は、足しげく祇園に通って舞妓の踊る様子をスケッチしたそうだ。また、照日の前の表情は、能面をそのままかぶせたようにイメージした。モデルに用いた能面は「十寸神」といって、本来男の面であるが、松園はそれを女らしい表情に変えて描いた。 なお、今日形見といわれるのは、この曲のタイトルからきているという。絵の中で照日の前が右手で提げ持っている籠のことである。 (1915年 絹本着色 208.0×127.0cm 奈良市、松柏美術館) |
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