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志ぐれ:上村松園の美人画




上村松園は、鏑木清方と同時代の画家で、しかも美人画を手がけたということもあり、よく比較される。清方の美人画が濃厚な色気を感じさせるのに対して、松園の美人画は、若い女性の健康さをアピールするところが特徴とされる。この「志ぐれ」と題する絵は、「春雪」とか「風」といった同趣旨の絵と共に、町娘の健康な美を描いたものである。

松園のこれらの絵に先駆けて、清方のほうは「築地明石町」以下の美人画三部作を描いていたので、両者は格好の比較対象となった。清方の三部作は、身分の高い女性(築地明石町)、芸妓(新富町)、町娘(浜町河岸)のそれぞれの色気と媚びのようなものを描き分けていたが、松園のほうは平凡な町娘の健康な姿をさらりと描いている。

傘をさしたポーズは、清方の「新富町」に通じるが、「新富町」は芸妓の色気を描いているのに対して、こちらは町娘のしとやかさを素直に描いている。そこが物足りないという批評もあった。唯一色気を感じさせるといえば、裾からのぞいた赤い肉襦袢であろう。江戸の末期に流行ったというから、松園はそれに郷愁を感じていたのかもしれない。

(1936年 絹本着色 159.0×55.8cm 長野市、水野美術館)





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