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雪月花:上村松園の美人画




「雪月花」と題するこの三幅の作品は、大正天皇の后貞明皇后からの依頼に基づいて制作した。依頼を受けたのは大正五年ごろ、完成したのはその二十年後の昭和十二年のことだった。そんなにも時間をかけたのは、皇室からの依頼を恐れ多いことだと思って、制作に当たり念入り過ぎる準備をしたからだ。それにしても二十年とは、すさまじく息の長い話である。

モチーフには、皇室を飾るに相応しいものを選んだ。平安時代のみやびさを感じさせ、しかも皇后に相応しい女性の美を表現できるものだ。結果として、清掃納言、紫式部、伊勢物語に題材をとった。

一幅目(右端)は、清少納言の枕草子の一節に取材した。雪の朝、中宮貞子から「香炉峰の雪は如何に」と問いかけられて、簾を巻き上げて外の様子を御覧にかけるシーンをイメージ化したものである。

二幅目(中央)は、紫式部が石山寺に山こもりして、月を見上げながら源氏物語の構想を練るところをイメージ化したもの。紫式部ともう一人の女官が描かれている。紫式部のこのポーズは、いまも石山寺の庭の一角に再現されている。

三幅目(左端)は、伊勢物語の中から、筒井筒の幼い恋人たちをイメージ化したもの。かれらは井戸端ではなく、桜の花の下に並び立っている姿で描かれている。

この作品の出来栄えに松園は大いに満足したらしいが、彼女の絵としては、やや人工的な雰囲気を感じさせるようだ。

(1937年 絹本着色 各158.0×54.0cm 宮内庁三の丸尚蔵館)





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