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もたれて立つ人:萬鉄五郎のキュビズム的肖像画




「もたれて立つ人」と題するこの作品は、土澤から東京へ戻ったあと制作され、1917年の二科展に、「筆立のある静物」とともに出展された。大画面いっぱいに描かれた肖像画は、当時の人たちの度肝を抜いたらしく、結構な評判となった。

構図には、キュビズムの強い影響がみられる。鉄五郎は、土澤時代に、静物画を中心にしてキュビズムの実践をしていた。それは、基本的には、三次元の立体の各要素を、二次元の平面に解消するというもので、したがって立体的なものを平面化する手法といってよく、絵そのものは立体的には見えない。

だが、この「もたれて立つ人」を一見すると、結構立体性にこだわっているように見える。それは立体的な対象の分節の仕方が、鉄五郎独自のものだからであろう。鉄五郎は、対象をドライに解体するのではなく、ウェットに分節化し、それを平面的な画面の上に再構成したということではないか。

色彩は、赤のバリエーションからなっている。その赤にさまざまな明暗を施すことで、絵全体に奥行きのようなものを持たせている。鉄五郎のキュビズム的傾向の代表作であり、当時の日本の美術界に大きな影響を及ぼした。

(1917年 カンバスに油彩 162.5×112.5㎝ 東京国立近代美術館)





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