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薬缶と茶道具のある静物:萬鉄五郎の静物画




「薬缶と茶道具のある静物」と呼ばれるこの絵は、萬鉄五郎の静物画の到達点を示すものだろう。日常の食器をなにげなく並べながら、そのフォルムには大胆なデフォルメを施し、しかも妙な躍動感を表現するなど、遊びの精神が感じられる。

複数の視線を組み合わせていることは、左側の薬缶が真横から描かれているにもかかわらず、蓋は真上から見たように描かれていることからわかる(こういう画法は、セザンヌが静物画にとりいれたものだ)。また、右側の徳利はゼラチンのようにグニャグニャとして、まるでヒョウタンのようなゆがんだ形になっている。そういうところに、鉄五郎の遊び心を感じさせられる。

色彩はけっこう明るくなっている。鉄五郎の土澤時代とそれに続く時期は、暗い色彩のものがほとんどだったのだが、すこしずつ明るい画面への転向を模索していたようである。

1918年の第五回院展に出展され、好意的な評価をうけた。日本の静物画の歴史に新たなページを開いたと絶賛するものもあった。

(1918年 カンバスに油彩 53.3×73.0cm 岩手県立博物館)




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