日 本 の 美 術
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ねて居る人:萬鉄五郎の裸婦像




1922年に、萬は岸田劉生や中川一政らとともに春陽会を結成した。これは単なる洋画の模倣ではなく、日本的な美意識を洋画に盛り込もうとする運動だった。翌年の五月に、その春陽会の第一回展が催された。「ねて居る人」と題するこの作品は、そこに出展されたものである。

この絵のどこに、春陽会の理念たる日本的な美意識が込められているのか、なかなか分かりにくいかもしれない。デフォルメされた人体は、従来の萬の作品にもあったし、色彩感覚も、一時の暗いイメージのものをのぞくと、初期のフォービズム風のにぎやかな色彩感を萬はもっていた。この絵には、そうした従来萬がもっていたものを、そっくり盛り込んだといえなくもない。

この絵を見て、まず感じるのは、フォルムの異様さである。首は胴体との連続性を感じさせず、とってつけたように見える。脚の組み方にしても、かなり不自然である。こういう不自然さは、日本美術の伝統にはないもので、やはり萬のオリジナルであろう。

色彩にしても、かなりユニークである。初期のようなフォービズム的な鮮やかさはない。非常にくすんだ色で裸体を表現している。単純な背景もくすんだ色で塗られている。全体として、華やかさには欠けるが、一時の暗い色彩イメージからの脱却の意思を感じることができるのではないか。

(1923年 カンバスに油彩 79.5×116.0㎝ 北九州市立美術館)




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