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京都祇園祭の旅その二:祇園祭宵山



(大船鉾)

六時過、ホテルを辞して地下鉄に乗り四条烏丸駅に至る。四条通を西に歩み、新町通りを左して黄昏時の大船鉾を見る。屋台を囲む提灯に点灯せられ、昼間とは自ずから趣を異にす。集まり来れる大勢の人々列をなし、屋台の上に上らんとす。土産物を買ひ求めたる人に限って、屋台に上ることを許さるるなりといふ。かやうに人の波すさまじければ、徒歩の人も一方通行なり。


(四条通り裏の焼き鳥屋五黄の寅)

鉾を通り過ぎて小道を左するに一軒の食堂あり。表に展示せる品書を見をるうち、中より店員顔を出して、ご主人是非入られたしと誘ふ。この店は、地鶏を炭火焼にして供するなり。京都へ来て地鶏を食はずんば、京都へ来たる甲斐なし、何故ならば鶏は古来京都人の最も好むものにして、京料理の真髄もまた鶏料理にあるなりと。余、誘はるるるままに中に入りたり。

この店にて第一番に推奨するものは何ぞやと聞くに、推奨に値せざるものなしといへど、あへて推奨すればせせりなりと言ふ。せせりとは何ぞやと聞くに、鶏の首筋の皮なりと言ふ。さては、鶏の首がせせりたてるを以てせせりといふか、或は鶏のせせりに似たるによってせせり立つといふか、いづれか真ならん。

余、是非もなくせせりと五條ねぎの炭火焼を注文す。あはせてオバンザイ料理五種を注文せり。いはく、いんげんのおひたし、ほたての煮物、なすの生姜煮、くらげの煮物、ひじきの煮物なり。いづれも頗る歯ごたへあり。京料理は関東に比して歯ごたへを重んずるやうなり。追加注文せし京鴨の炭火焼も頗る歯ごたへありき。

今日は酒の特売日にて、どの酒をも五百円にて売るべしといふ。余、生ビールを飲み干したる後は、京の酒を数種飲みたり。いずれも甘口なりき。されば口直しに、新潟の超辛口酒を飲まずんばやまざりしなり。

さて、この店の名を五黄の寅といふ。この言葉を以て何をか訴へんとすると聞くに、店員いはく、これは店主の生月をさしていふなりと。さればこの店の主人は五黄の寅年生ならん。なほ、これはご愛嬌つひでに、余の相手を勤めたる店員の親父は余と同年輩なる由なり。


(南観音山)

店を辞して後、あたりを散策しつつ、四条通より北側の山鉾を巡見す。昼間見たるときとは自ずから趣を異にす。山車のなかには、地元の人々揃いの浴衣を着て壇上に上り、笛を演奏するものもあり。関東の笛とは音色異なれり。こちらの笛は、威勢よりも優雅を重んずるが如し。


(黒主山)

また、子どもら声を張り上げて団扇を売るものもあり。いはく、クロヌシヤマのウチワ、どうですかあ~。その団扇を見れば、黒字に赤く黒といふ文字染め出してあり。

夜の、灯りに包まれたる山車を一通り見終りて後、地下鉄に乗りて京都駅に至り、九時近くホテルに帰る。しかして、入浴して後、家より持参せるウィスキーを舐めつつ今日一日の日記を整理す。







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