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京都祇園祭の旅その六:鞍馬、貴船



(鞍馬)

食後、出町柳駅発十三時零分の叡山線鞍馬行に乗り、十三時三十分鞍馬に至る。駅前に多宝塔あり。ケーブルカーの乗り場を兼ぬる。されどケーブルカーは改修中につき全面運休なりといふ。仕方なく、徒歩にて上らんとす。この参道は急斜面にして、階段頗る急なり。なるべく階段を避けて坂道を上らんとすれど、坂道もまた急にして老人の足にては頗る難儀す。


(鞍馬の参道)

由岐神社を過ぐるや九十九折の坂道となる。これもまた頗る難儀なり。やうやく本殿に至るといへど、その先もまた急な石段延々と続けり。難儀の上にも難儀すとはこのことなり。石段の途中に老女の集団休憩してあり。見ればみな余より余計に馬歯を重ぬるが如し。しかるに意気揚々として疲労の色を感じさせず。余大いに恥じたり。


(鞍馬寺奥の院)

奥の院を過ぎてしばらく行くに、坂道は下りになれり。これはまたこれで、歩くには大いに難儀せり。上下の分岐点となるところに義経背比石なるものあり。義経が鞍馬にて成長する過程を背丈の徴にて示せるものなりといふ。

背比石よりやや下れるところに僧正ケ谷なるところあり。謡曲鞍馬天狗の舞台となりしところなり。鞍馬天狗は稚児愛を主題にせるものにて、三田村鳶魚翁が変態の芸能と決め付けたるところなれど、鞍馬を主題にしたる能としては、これを以て白眉とすべきか。

ガイドブックには、鞍馬より貴船まで五十分とありしが、余は実に九十分を費やして貴船に着きぬ。貴船は鞍馬の西門に擬されたれど、古来庶民の信仰あつきところなり。謡曲にも亭主の浮気に怒れる女が、貴船大明神に報復の願をかけるといふ鉄輪の一曲あり。さればこの明神は離縁の神と思ひをりたれど、奥の院には夫婦円満の神も祭れるといふなり。


(貴船神社)

貴船神社の本殿には、若年の男女列をなして参詣す。この男女何の願をかけをるや、他人には知るべくもなし。なほ、この神社は絵馬発祥のところともいふなれば、縁切にかぎらず、人の願いに広くこたふるにや。

神社よりやや下りたるところにバス停あり。そこよりバスに乗りて叡山線貴船口駅に至り、そこより電車に乗りて出町柳に戻りぬ。駅を出づるや、付近の食堂に入り、生ビール一杯を注文す。

出町柳よりバスにて京都駅に至り、五時頃ホテルに戻る。しかしてしばし休養したるのち、京都駅ビル内伊勢丹に赴き、十一階なる美々卯にて夕餉をなす。湯葉入りのうどんと小料理数種の弁当を注文せり。

夜半、日記の整理をなし、ウィスキーをなめること毎夜の如し。







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