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室生寺:奈良古寺めぐり(四)



(室生寺本堂)

三月十一日(水)晴。朝餉をすませて後JR奈良駅まで歩み、ローカル線に乗って桜井駅に至り、そこより近鉄線に乗り換へて室生口大野駅にて下車す。山間の、周囲にはほとんど何もなき鄙びた駅なり。客待ちせるバスに乗り、山間の道を走ること二十分ばかり、途中道沿ひに茅葺屋根の家をいくつか見る。土地の農家なるべし。また、バス停の名称に栢森宅前なるものあり。停留所の前に一軒の民家あり、これが栢森宅なるべし。

室生寺は、山の斜面に開ける広大な敷地に、堂宇散在してあり。典型的山岳寺院なり。山門をくぐれば、数十級の石段あり。脚に不安のある身にはこたふるなり。これを上り詰めれば、正面に金堂、その傍らに弥勒堂立てり。本堂は、傾斜地に舞台を張り出すように作られてあり。堂内中央には釈迦如来、向かって右へ薬師、地蔵の両菩薩、向かって左に文殊、十一面観音の各像安置せられたり。弥勒堂には本尊弥勒菩薩と釈迦如来の像安置せられたり。

再び石段を上がれば灌頂堂あり。この寺の本堂なり。堂内には如意輪観音の坐像を安置す。この寺は弘法大師の創建するところなれば、密教風に如意輪観音を本尊とすなるべし。その姿形、大阪歓心寺の如意輪観音とほぼ同じ様なり。


(室生寺五重塔)

また石段を登れば五重塔あり。折から俄に降り出せる雪の中に、なかなか優雅な姿を望見せしむ。この塔の更に先には、大師堂といふべき奥の院あり、弘法大師の名高き像を安置するはずなれど、脚の不安ありしかば赴かず。

下山する途中、弥勒堂の奥の木陰に北畠親房の墓あるを見る。親房はたしか賀名生にて死し、その地に葬られたりと思ひをりしが、この寺に改葬されしにや。もっとも当該の墓には、親房にかかはる事跡の記録を見ることなし。

下山後、バスの発車まで多少時間の余裕あれば、太鼓橋傍らの茶店に入る。太鼓橋よりバス停のある場所にかけては、多くの旅館立ち並びてあり。室生寺は交通の便なき山間にあるなれば、参詣の人々は門前の旅館に一泊するを例としたるなるべし。それらの人々の殆どの女人なることいふまでもなし。室生寺は古来女人高野として知られ、女人憧れの的なりしなり。

茶店にては熱燗を注文す。寒気のために体の芯から冷えたれば、気付には丁度よろし。







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