日 本 の 美 術
HOMEブログ本館日本文化美術批評東京を描く水彩画動物写真 | プロフィール掲示板



平城宮跡、西大寺:奈良・大和路を歩く



(平城宮大極殿)

三月十四日(火)早朝家を出で、東京駅八時発の新幹線に乗り、車中ビールを飲みつつサンドイッチを食ふ傍ら、村上春樹の小説「騎士団長殺し」の下巻を読む。上巻は昨日読了せるなり。大いに感心したれば、続けて下巻を読まんと思ひ、重量を厭はず持参せしなり。

京都にて在来線に乗り換へ、午近くJR奈良駅に到着す。そのままホテルに直行。一昨年投宿せしアジールなり。荷物を預け、三条通に面せるうどん屋にて昼餉を喫し、二時頃、駅西口前より西大寺行きのバスに乗り、平城宮跡前にて下車。バス停前なる遺構展示館に立ち入る。

これは、出土せる遺構をそのまま保存しをるものにて、遺構を抱き込むやうにして建物を構へてあり。遺構は平城宮内の役所の基盤などにて、建物の柱穴やら、堆積層の様子など展示せられてあり。この役所は塼積官衙といひ、塼なる特殊瓦を用ひし建物からなる由。内裏に接するところから、太政官なるが如しといふ。

遺構展示館の西側一帯は内裏跡にて、その更に西側に大極殿再建せられてあり。内裏跡には奇妙な形に刈り込まれたる潅木群あり。また大極殿は、巨大な建物孤立して聳え立ちてあり。目下平城宮再建途中にて、大極殿はその初めに再建せられたれば、本来あるべき付属構造物を伴はず、かく裸の状態にて立てるなり。本来の大極殿は周囲を巨大な土塀に囲まれ、殿前の閉じられた広場には天子に拝謁する人々を参集せしむるといふ。

大極殿の南側の対極には朱雀門再建せられてあり。両者を挟む空間には近鉄電車の線路走りてあり。この電車に乗るものは、平城宮の再建の様子を日々見ることを得るなり。その再建には長大なる時間と巨額の費用を要するべし。いまは地元の人々の遊び場となり、この日も凧揚げをする親子連れを見たり。

平城宮跡資料館に立ち入る。これは平城宮の全体像を紹介するものなり。案内の老人に何時再建成就するやと聞くに、明瞭なる展望無しといふ。大極殿の再建のみにても百八十億円を要したれば、全体の費用の幾許なるを予想しえず。費用にのみにても不確定の要素大なれば、この膨大なる構想に如何程の資源を要するや見当もつかず、したがって何時成就するかも忖度せられざるなりといふ。


(西大寺本堂)

再びバスに乗りて西大寺駅に至り、西大寺を訪ぬ。目当ては善財童子像なり。余先年奈良に旅せる折、この像を見ていたく感心するところあり。その思ひを歌にも詠ひしなり。
  悠久の塵の汚れが愛らしき善財童子の笑顔なりけり
この日改めてこの像を見るに、塵の汚れはともかく、その表情は笑顔といふよりは、なにかを希求するものの如し。

案内の老僧に聞くに、この像は目がポイントなる由。さる児童作家がこの像にいたく惚れこみ、何日も通ひ続けて対面したる挙句、一遍の童話を書き、その題名を「ウサギの目」としたる由など語りぬ。

西大寺を辞して後近鉄電車にて奈良に戻る。ホテルの部屋に落ち着き、地下の大風呂にて入浴し、夕刻駅前の銘酒屋に入る。主人余を見ていづこより来りしやと問ふ。東京よりといふに、それは遠いところを大変でしたといふ。言葉つきは慇懃なれど、その調子に気にさはるものあり。余が単身なるを見て、迷惑に感じをるやうなり。単身の客では儲からぬと心中思ひをるが如し。

コンビニにて氷とソーダ水を買ひ求め、ホテルの部屋にてウィスキーを舐めつつ夜をふかしたり。







HOME奈良・大和路の旅次へ










作者:壺齋散人(引地博信) All Rights Reserved (C) 2013-2016
このサイトは、作者のブログ「壺齋閑話」の一部を編集したものである