日 本 の 美 術
HOMEブログ本館日本文化美術批評東京を描く水彩画動物写真 |プロフィール掲示板



長谷雄卿草紙:鎌倉時代の絵巻物



(長谷雄卿草紙:鬼と双六をする長谷雄卿、縦29.7cm、永青文庫蔵)

長谷雄卿草紙は、平安時代初期の文人紀長谷雄を主人公とする珍しい説話を絵巻にしたものである。説話の本分に相当するものは、文永7年(1270)に成立した「続教訓抄」にも出ている。この絵巻物はその後、14世紀前半に作られたと考えられる。五段の絵と詞書からなっている。

ある時見知らぬ男が長谷雄卿を訪ねて来て、朱雀門に上って双六の勝負を挑む。その際に、男は絶世の美女を、長谷雄卿は全財産をかける。激しい勝負の途中で男は鬼の本性を現すが、長谷雄卿は恐れることなく勝負に勝つ。男は約束通り、長谷雄卿の邸に絶世の美女を連れてくるが、今から百日の間女とちぎってはならぬと条件を付ける。長谷雄卿は当初その条件を守っていたが、80日目に我慢できなくなって、女とちぎろうとした。すると女はたちまち水となって流れ去り、いくら悔やんでも元の姿に戻ることがなかった。

この女は、朱雀門に捨てられた死骸からよいところをとってつなぎあわせたもので、百日たてば霊が固まって本当の女になれるはずというのだった。鬼は約束を破った長谷雄卿を責めるが、長谷雄卿は北野天神を念じて難を免れた。以上、中世初期の怪奇趣味に天神信仰が絡んだ荒唐無稽な物語である。

上の絵は、朱雀門で双六勝負をする長谷雄卿と鬼。人物は綿密に描かれている。


(長谷雄卿草紙:水となって流れ去る女)

長谷雄卿が女を抱きしめると、女は水となって流れ去る。長谷雄卿の手には女の装束だけが空しく残る。







HOME鎌倉時代の絵巻物次へ










作者:壺齋散人(引地博信) All Rights Reserved (C) 2013-2015
このサイトは、作者のブログ「壺齋閑話」の一部を編集したものである