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叭叭鳥図:雪村の世界




「叭叭鳥図」は、雪村の作品で唯一制作年が明らかである。着賛に天文二十四年(1555)九月とある。この年、雪村は満五十歳前後で、もっとも脂ののったときだった。着賛は、鎌倉円覚寺黄梅院の僧景初周隋で、四印同人と号した。かれは本図を、易の卦「泰」にことよせて解釈した。泰の卦は、順風をあらわし、季節としては早春にあたる。この絵はだから、早春のおだやかな季節感をモチーフにしていると考えられる。

藁のまじった粗野な紙に、胡粉を塗った上に、墨で描いている。胡粉は雪の雰囲気を表現するとともに、紙の強度を増す効果もあった。普通なら速やかにそこなわれているはずのところ、今日まで持ちこたえることができたのは、この胡粉のおかげといってよい。

叭叭鳥は、むくどり科の黑い鳥。はっか鳥ともいう。それが水辺の土坡にたたずむさまを描いている。土坡には葉を落とした茨が生え、水面には折れた芦が浮いている。

(天文二十四年 掛幅 紙本墨画 26.0×48.0㎝ 根津美術館 重文)





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