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草紙洗小町:上村松園の美人画




能に取材した松園の作品のうち、もっとも能らしい雰囲気を感じさせるのは、「草紙洗小町」と題したこの作品。松園は、その直前に、能の仕舞「序の舞」をモチーフにしたばかりだったので、能が続くと客の不興を買うのではないかと心配したらしいが、この作品は、そうした心配を吹き飛ばすほど完成度の高いものになった。

能「草紙洗小町」は、宮中での歌合せをテーマにしたもので、歌合せの相手大伴黒主がしかけた罠を小野小町があばくというような内容である。この絵は、その舞台から、イグセの部分を切り取ったものであろう。左手に草紙を持った小町が、右手で扇をかざしながら、黒主の仕掛けた罠をあばくところのようである。

これについて松園は、「青眉抄」の中の「草紙洗を描いて」という小文の中で次のように書いている。「これは能楽そのままに取ったのではありません。小町の描出を普通の人物に扱ったものですから、画面の小町は壺織のうちかけに緋の大口を穿っているのは、能楽同様な気持ですけれども、その顔には面をつけておりません」

つまり、能役者の雰囲気を借りたのであって、そのままに移したのではないということらしい。ちなみにこれを制作するについては、能の師匠金剛巌の舞台を参考にしたという。

(1937年 絹本着色 214.6×133.0cm 東京芸術大学蔵)





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