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T子像:萬鉄五郎の肖像画




T子とは長女とみ子のこと。とみ子は、1926年の12月に死んでいるから、この絵は死の直前に描かれたことになる。死因は結核というから、死に際にはかなりやつれていたはずである。ところがこの絵の中のとみ子は、やつれたところを感じさせない。おそらく鉄五郎の親心から、娘を理想化したのかもしれない。

じっさい、娘に対する鉄五郎の愛は深く、娘を失った鉄五郎は、生きる気力をなくすほどに落胆した。その落胆があまりにもひどかったのであろう、鉄五郎自身、娘の死から半年後に、後を追うようにして死んだのである。

全体をほぼ暖色でまとめてある。そのために、火のように熱い印象をもたらす。鉄五郎は、死にゆく娘に火のようにな情熱を吹き込むことで、生命力を取り戻してほしいと思ったのであろう。

(1926年 カンバスに油彩 63×53㎝ 愛媛県久万高原町 町立九万美術館)




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